今回このページで取り上げる作品は、「IPPO」という靴を題材にした漫画です。
値段は最低でも1足30万円で「ビスポーク」という、いわゆるオーダーメイド靴を手掛けている若き靴職人の一条 歩と、オーダーに来る様々なお客さんとの靴にまつわるお話です。
作者のえすとえむさんは、「うどんの女」や「はたらけ、ケンタウロス!」などギャグ要素強めな一風変わった作品を世に出していますが、今作の「IPPO」はストーリーもシンプルかつスタイリッシュ!
漫画好きの友達にも何人か聞きましたが、IPPOを読んだことがある人は誰もおらず知名度は低めですが、ここ最近読んだ中ではイチオシの良作漫画でした!
IPPOのあらすじ
主人公の一条 歩は、イタリアの一流靴ブランド「ジェルリーニ」の創業者を祖父に持ち、両親が離れ離れになったことをきっかけに、12歳でフィレンツェに渡ります。
祖父のもとで靴職人として修業を受け、17歳でジェルリーニの全工程を任されるほどの腕前にまで成長した後、22歳で帰国。
帰国後は東京の吉祥寺に、「IPPO」という注文靴(ビスポーク)専門のお店を構えます。
最低でも1足30万円からという値段や、一条がまだ学生のようなあどけなさが残る若者なので、初めて来たお客さんはオーダーすることに不安を覚えますが、一条は技術・センスともに一級品。
IPPOに来店するお客さんの要望は様々ですが、時間をかけながらじっくりと向き合って対話し、それぞれの人に世界に1つだけのオーダー靴を作り上げていくハートフルなストーリー。
IPPOのここを読んでほしい!私がおすすめする注目ポイント
IPPOは深く熱い描写や感動するお話も多いのですが、全5巻でサラッと読めるので、なんとなく見終わってしまう場合もあるかもしれません。
なので以下において、IPPOを読んで私が感銘を受けた、ここに注目してほしいと思うポイントを述べていくので、ぜひ参考にしてください。
靴の専門的な知識を得ることができる!
IPPOでは靴の専門的な知識がたくさん載っているので、単純に勉強になります。
たとえば、「ストレートチップ」、「ウイングチップ」、「プレーントゥ」、「モンクストラップ」など靴の種類や、それらの靴がどのようなシーンで履くのに向いているかなどですね。
また靴の製法の違いに関しても、2回に分けて縫いつける「グッドイヤーウェルト製法」と、1度の出し縫いだけで縫い上げる「マッケイ製法」などがあり、
マッケイ製法はコストパフォーマンスが悪いが、華奢で美しいラインやより自由なデザインを選ぶことができるとのこと。
ファッション関係者とかでない限り、まずこのような知識を知りえることはないと思いますし、分かりやすい補足説明があるので、「へぇ~そうなんだ」と腑に落ちやすいですね。
またIPPOを読むと、オーダーメード靴を作るにあたって、どんな流れをたどって仕上がるのかが理解できます。
大まかに説明すると、
・使用する革、デザイン、色を決める
・足の形を採寸して、「ラスト」という木型を作る
・使用する革を裁断する
・そのラストに合わせて、靴のアッパー部分やソールを縫い付けていく
・仮縫いの状態でフィッティングして問題点を見つける
・納品
このような工程を経て、作られていきます。
特にラストに関してはとても興味深く、採寸したデータをもとに木型を削って調整していき、1人1人に合う足型を作っていくとのことです。
そのラストに合わせて1針ずつ丁寧に縫っていきますので、寸分の乱れもなく足にピッタリとフィットする靴が作られるわけですね。
このような自分が知らなかった知識を、漫画を読むことで得られる喜びがIPPOにはあるのです。
一条 歩のお客さんに寄り添う、靴職人としての熱い魂!
一条 歩のお客さんに対する靴職人としての姿勢は、この漫画の大きな見どころだと思います。
IPPOでは靴として外見が美しいことや、その人の足に合っていて歩きやすいというのはあくまでも最低条件。
さらに履いた人の背中を押したり、人生を彩る最高の1足を作り出していくことを信条としています。
そのためにはまず相手を知ることが必要となり、オーダーを受ける際にはお客さんとしっかり対話をしていきます。
具体的には、「どんな時に履くのか?」、「どんな服に合わせるのか?」、「だれと会う時に履くのか?」、「なぜビスポークという選択なのか?」などですね。
このようにして注文する人の背景を聞いた上で、プロとしていろいろ提案し、そのお客さんが納得できまで注文を受けないという姿勢を貫くのです。
たとえば、当初はモンクストラップやストレートチップを作ることを想定していたのに、注文する段階で迷ってしまい、決めかねているお客さんがいました。
一条はその人が普段どういう生活をしているのかを聞き、その結果、オーダー靴として手堅いものではなくレザースニーカーを提案します。
これを読んだときは、「わざわざ30万払って、スニーカーを作るのかよ」と思いましたが、これに対して「他の誰でもないあなたが履く靴を、私は作る」というのが一条の答えです。
こんな感じで、IPPOでは依頼者に寄り添うことを信条としていますが、時には過去の先輩や日本の同業者から、「依頼者に媚びすぎて美しくない」と酷評されることもあります。
それでも一条は、ブランドとしての哲学や職人としてのこだわりよりも、履く人にとって本当に良いと思える靴を作ることを一番に考え、ブレることはありません。
物を作る職人に対して尊敬の念を抱いている人は少なくないと思いますが、この漫画ではそんな熱い職人魂を垣間見ることができます。
靴を注文する様々なお客さんとの心の交流
IPPOには、バラエティに富んだ個性豊かなお客さんが日々来店してきます。
わざわざ高いお金を払い、完成まで数か月待つことが分かっているのに、それでも靴をオーダーする想いというのはそれぞれ異なるのです。
たとえば、
- 人とは違うかっこいい靴が欲しい、広告営業マン
- 元モデルで、事故によって義足になってしまった女性デザイナー
- 父親の形見の靴と、同じ形の靴を作ってほしい2代目社長
- 履くためではなく、眺めるためにオーダー靴を注文する医者
- プライベートで履く靴が欲しいけど、普段はスタイリストに全部任せているのでどんな靴を注文すればいいのか分からない芸能人
このような感じで、本当に様々な要望を抱いたお客さん達が、世界に1つだけの靴を求めてIPPOに訪れます。
中でも一番印象深かったのが、元モデルで事故によって義足になってしまい、今はデザイナーの見習いとしてファッション業界に携わっている女性のお話です。
この女性からは、「前をしっかり向くための靴が欲しい」というオーダーでした。
それに対し一条は、1枚の皮から縫い目なく作るワンピースで、使い込むうちに色がドンドン変化していく、オフホワイトのヌメ革を提案します。
一条曰く、ゼロの状態から1歩を踏み出すのにふさわしい靴とのことですが、この部分には深く胸をうたれましたね。
また履くためではなく眺めるために、おまかせでオーダー靴を注文した医者に対しては、
靴職人としてあくまでも履いて歩いてもらいたいという思いから、医師の仕事中でも履くことができ、さらにリラックス間のある白のローファーを作るのです。
その医者は納得していない様子でしたが、後日談において患者さんから「素敵な靴ですね」といわれ、「気に入っているんですよ」と嬉しそうな表情をしていました。
このように店に来る様々なお客さんと一条 歩による、靴を通して行われる心の交流は、間違いなく注目ポイントの1つです。
1話完結・全5巻かつスタイリッシュで読みやすい!
IPPOはファッション漫画というよりは、心温まる人間ドラマという感じです。
ただし一条が修業したジェルリーニには「モダンで美しい靴を提供する」という哲学があり、その哲学に沿うかのように、漫画全体からもお洒落な雰囲気が漂っています。
合っているかは分かりませんが男性雑誌のLEONっぽいというか、靴以外でも登場人物が着ているジャケットやシャツなんかは、細身でとてもスタイリッシュです。
一条が構える店舗も入口からガラス張りで、サンプル以外に無駄なものは一切置いてない、芸術家のアトリエのような感じですしね。
あとは作画的に効果線や擬音はほとんど使わておらず、淡々と静かな映画を見ている雰囲気があり、それも作品全体のお洒落さに拍車をかけていると思います。
そして、なんといっても読みやすさ!
だいたいのお話が続きではなく、1話完結になっているのでテンポがとてもよく、スラスラと読むことができます。
全体的なボリュームとしては全5巻と少し物足りないぐらいですが、2~3時間あれば全話楽に読めますので、暇な時間に手に取れる気軽さがありますね。
IPPOのまとめ
ということで漫画「IPPO」について、個人的な思いを綴ってみました。
なにわともあれ、コンパクトにまとまっている作品なので、難しいことは考えず手にとってもらいたい漫画です。
あとはやっぱりこの漫画を読むと、自分もオーダーメイドの靴が欲しくなりますね。
私は安月給の平サラリーマンなので現状難しいですが、試しにネットで検索してみると、IPPOと同様に1人1人のラストを作って制作しているお店も結構あるみたいです。
自分にピッタリと合う自分だけのオーダー靴、いつかは欲しいです。
そんな新しい価値観を持てるようになったのもIPPOのおかげですし、自分にとってはプラスとなる素晴らしい作品でした。